1998年リリース。
名盤『3rd Perspective』発表からわずか1年――
日本のクラブジャズ・シーンを牽引していた絶頂期の矢部直による珠玉のDJ MIX CD。
収録曲からは想像が難しいがこれはDJ MIX CD。
フェードイン/アウトやカットインを中心としたシンプルなミックスでありながら、全体の流れを損なうことなく、ひとつのストーリーとして成立させている。
クラブという現場で培われた矢部直の選曲眼とセンスが随所に滲み出ている。
踊らせるというより、グルーヴに身を委ねるような心地よさがあり、当時の空気感をそのまま封じ込めたような、じわりと効いてくるミックス。
今回は、音のマエストロ・矢部直による、ひとクセある選曲が光るこのDJ MIX作品を紹介したい。
United Future Organization(矢部直)/ City Lights(DJ MIX)


1 KIP HANRAHAN / Shahrazade
2 TALVIN SINGH feat LEONE / Distant God
3 椎名謙介 / Ring of Fire
4 久石 譲 / Play On The Sands
5 MONDAY満ちる / Fading Beauty (Chilln’ Winter Mix)
6 ECD / 俺たちに明日はない(青木誠 REMIX)
7 TOM WAITS / Hang On ST. Christpher
8 BALLIN’ JACK / Try To Relax
9 GILBERTO GIL / Eu So Quelo Um Xodo
10 Luiz Henrique feat WALTER WANDERLEY / Happy Birthday
11 CAL TJADER / Souled Out
12 HARVEY MANDEL / Jive Samba
13 UNITED FUTURE ORGANIZATION / Moondance
14 VIBRAZIONI PRODUCTIONS / Je Ne Sais Pas Pouquoi
15 ALEX REECE / Jazz Master(Kruder&Dorfmeister Remix)
16 COURTNEY PINE / Don’t X’plain(Flytronix Mix)
オープニングを飾るのは、ニューヨーク出身の打楽器奏者Kip Hanrahanによる「Shahrazade」。
ピアノとパーカッションを軸に、繊細で美しい響きを織り上げた静謐なナンバーでこのDJ MIXの幕開けにふさわしい余韻を残す。
続くのは、世界的タブラ奏者Talvin Singhによる「Distant God」。
Leoneの伸びやかで透明感あるヴォーカルをフィーチャーし、タブラのリズムと浮遊感のあるサウンドが溶け合う、スピリチュアルな響きに満ちた一曲。
3曲目に登場する「Ring of Fire」は椎名健介の代表的な楽曲の一つで、トリップホップの要素を取り入れつつ、心地よいビートと繊細なサウンドデザインが融合し、リスナーをリラックスした気分に誘う。
ここまで踊るというよりもグルーヴに身を委ねる選曲が続いてきたが、ここで矢部氏の個性が強く表れた圧巻の選曲が登場。
北野たけし監督映画『ソナチネ』の浜辺で相撲を取る名シーンで流れていた久石譲「Play On The Sands」。
沖縄の三線の音色が心地よく響き、南国感あふれるサウンドがフロアに多幸感をもたらす一曲。
続く、Monday満ちる「Fading Beauty」からECD「俺たちに明日はない」までの流れも、選曲の奥行きを感じさせる展開。
特にこの青木誠によるREMIXは、リリックの持つ言葉の力がよりくっきりと際立ち、静かに染み入っていたグルーヴに言葉が鋭く差し込んでくる。
「シャツを乾かせ夜の風……まともな人たちなら睡眠しているあいだに俺らSWIMMIN’……遅いぞぉぃ、追いついてこい!!」
心地よいグルーヴに身を委ねていたところに、ガツンと目を覚まさせられるような一撃。
このタイミングでこの曲が来るあたり、矢部氏の“クセ”とセンスが光る。
そして、TOM WAITSまでもが、その聴かせ方ひとつでCLUBサウンドとして機能するのかと、思わず唸らされる。
そして、United Future Organizationもカヴァーしている、Gilberto Gilの名曲「Eu Só Quero Um Xodó」。
ブラジルのフォーク・ポップ・ソングとして知られる一曲で、キュンとくるメロディーラインがたまらない。
ちなみにUnited Future Organizationヴァージョンはこの「Make It Better」。
この時期のU.F.O.らしく、より成熟したラウンジ・ジャズ/ボッサブレンド寄りのアレンジ。
続いて登場するのは、誰もが知るあの「Happy Birthday」。
選曲としては一見“外し”にも思えるが、ここでそれを堂々と、しかもスタイリッシュに聴かせてくるあたり、やはりキャリアとセンスのなせる技。
大胆な選曲で意表を突いた後に続くのは、ヴィブラフォン奏者 Cal Tjaderによる心地よいラテン・ジャズ「Souled Out」。
軽快なリズムと繊細なヴィブラフォンの音色が、フロアに再び柔らかなグルーヴを取り戻させる。
続いては、Jeff Beckにも影響を与えたと言われる、Harvey Mandelによるフュージョン〜クロスオーバー系の隠れた名曲「Jive Samba」。
浮遊感を伴うエクスペリメンタルなギターワークが印象的で、ムーディーな空気感を生み出している。
そしてここで、ついに自身の楽曲「Moon Dance」が登場。
VAN MORRISONによる名曲のカヴァーでありながら、まったく異なる表情を見せる一曲。
クラウディア嬢による官能的なポルトガル語のヴォーカルが、ムーディーで幻想的な空気を纏わせ、思わず息をのむほど。
じわじわと積み重ねてきた選曲の流れの中で、このタイミングで自らの作品を差し込んでくるあたり、さすがの構成力としか言いようがない。
「Loud Minority」や「Fool’s Paradise」といった定番をあえて外してくるあたりに、矢部氏の選曲における商売っ気のなさ、そして流れへの誠実さが感じられる。
ここからようやく、セットの中にクラブ的なテンションが立ち上がり始める。
登場するのは、ジャズ系ドラムンベースのALEX REECE「Jazz Master」。
清涼感のある音色としなやかなビートが、これまでのメロウなグルーヴの余韻を引き継ぎつつ、新たな展開をみせていく。
ラストは、当時のイギリス・ニュージャズシーンを代表するサックス奏者Courtney Pineによる、ビリー・ホリデイの名曲カバー「Don’t Explain」。
これを大胆にドラムンベース仕様にアレンジしオープニングのグルーヴからは想像できない矢部氏のセンスが光るフィナーレ。
ここまで自由な選曲で、これほどまでにDJの“クセ”を前面に出したMIX CDがよくメジャーレーベルからリリースされたものだと改めて感心させられる。
特に2000年前後にリリースされたMIX CDの多くには、クラブ現場の空気感やリアリティがしっかりと刻まれており、単なる選曲の羅列ではない“現場の記録”としての魅力があり、本作もまさにそのひとつ。
自由度の高さ、流れの妙、そして突き刺さる一曲一曲が、今なお色褪せない。
▶︎矢部氏ラストDJ MIX TAPE↓
↓伝説のクラブ「YELLOW」のラストマンスリーガイド
