今では主流となったPCを駆使したDJスタイルを20年以上前に取り入れたミニマルテクノの帝王の異名を持つリッチー・ホウティン。
Plastikman名義でヒット曲を量産していた頃のリッチーがソロで初めてリリースしたDJ MIX CDが「DECK,EFX&909」。
当時は今みたいにYoutubeで映像も見れなかったのでDJスタイルが謎でしたが、Plastikmanのイメージに反して想像以上のハードミニマルテクノでガツンとやられましたが、その2年後にリリースされた「DE9 Closer to Edit」では想像のナナメ上をいく大進化を成し遂げ、さらに4年後にはリッチーのテクノロジーへの傾倒が開花し、「DE9 TRANSITIONS」では5.1chのサラウンド音響DVDで収録時間96分という長尺DJ MIXをリリース。
今回は新しいDJ MIXをリリースするたびに進化を遂げるリッチーホウティンのDJ MIX3部作を紹介します。
DECK,EFX&909
1999年にリリースされた本作はDJとしての存在感が増してきた頃のMIX CD。
この作品では3台のターンテーブルとエフェクターとリズムマシーンTR-909をフル活用したDJスタイル。
現在のようにPCソフトを使用せずターンテーブルとアナログレコードで平均1分弱の早繋ぎでズレることもなく正確に、そして時には3枚使い&リズムマシーンという離業を成し遂げ、常人離れしたテクニックとセンスで圧倒されます。
そして注目なのが現在のリッチーから想像できない疾走感あるハードミニマルスタイル。
プレイリストを見てもJEFF MILLSやBEN SIMS、SURGEON、RICHARD HARVEYなどハードミニマルテクノを代表するアーティストがずらり!
38曲という大ボリュームを61分に収めてしまう超人的ショートミックス。
この頃からミニマルテクノをパーツとして再構築させていくという手法の断片を伺うことができます。
聴きどころだらけの本作ですが強烈なインパクトを与えてくれたのがリッチーホウティン名義の大ヒットアンセム「Minus Orange」と「Nitzer Ebb」のMIX。
DJツール的要素の強かった「Minus Orange」の2枚使いで勢いを加速させたところにNitzer Ebbのシャウトするヴォーカルを被せつつ、またMinus Orangeに回帰していくというまるで完成されたリミックスのような高難易度なDJプレイをさらりとやり抜けます。
DE9 Closer to Edit
DJ業界に激震が走った歴史的DJ MIX CDがこちら。
前作「DECK,EFX&909」では超人的テクニックとセンスの塊のようなDJ MIXで、3台のターンテーブルとエフェクターとリズムマシーンというアナログの機材を駆使したハードミニマルスタイルでしたが、今作ではPCを駆使して全く新しいDJ MIXのスタイルを発表。
当時、まだまだ開発途中だったファイナル・スクラッチというPCソフトを使用し、DJが今までレコードをスピンさせていたのと変わらないスタイルでデジタル音楽ファイルを使用できるという画期的な方法を取り入れています。
全く新しい手法でミックスされた本作は自身のPlastikmanやBasic Chanel、Stewart Walker、Thomas Brinkmannなど70曲以上のトラックを分解して再構築して53分、31曲に再編集、タイトル通りエディットして全く違った曲に生まれ変わっています。
前作のハードミニマル路線とは目指すものが異なり、クリックハウス〜ディープミニマルの潮流を先取りしています。
DJ MIXというよりかは完成度の高いアート作品と言っても差し支えありません。
今聴いても全く時代感を感じさせない先鋭的な内容でとてもおすすめです。
DE9 TRANSITION
歴史的なDJ MIX「DE9 Closer to Edit」から4年後にリリースされ、続編ともいえるのがこちら。
画期的ともいえるDJツールABELTONのLIVEがアップデートされ、よりリッチーの理想とするDJスタイルに近づくことができたともいえる内容。
前作ではDJツールのソフトがまだ開発されたばかりで複数の曲のパーツを崩さず完璧にシンクロさせるためには長くても10秒ほどのサンプルを組み合わせるしかなかったのが、今回はその制約がなくなり、90分もの長尺DJ MIXをDVDで実現。
そのおかげでDVDならではの5.1chのサラウンド音響が実現し、自宅のオーディオ次第ではクラブの音響環境を凌駕するサウンドが実現。
完璧とも評された前作の延長上にある今作ではやはり音が作り込まれているだけあって臨場感が前作より格段に上です。
このDVDにはDJ MIXの他にもドイツのレイヴパーティー「Time Warp2005」でのライブDJも収録。
当時はYoutubeもあまりメジャーではなかったので動くリッチーが観られるだけでもこのDVDを買う価値がありました。
PCを操作しながらターンテーブルを操り、イコライジングする姿に次世代DJの風格を漂わせています。
いかがでしたでしょうか。
こうして、リリース順にMIX CDを聴いてみると時代の流れと共にリッチーの進化の過程がはっきりわかります。
デトロイトテクノをルーツとし、ジェフミルズのプレイに多大な影響を感じさせる「DECK,EFX&909」以降は、先駆者ともいえるDJスタイルを確立し、テクノロジーの進化とともにアップデートさせますます唯一無二の存在となっています。
攻めの姿勢を崩さないリッチーホウティン、次はどんな進化を魅せてくれるのか楽しみです🙂