京都に移住してからファミレスに行く機会がほとんどなくなった。
理由はいくつかある。
ひとつは、一人でふらっと入れる魅力的な個人経営の飲食店が京都にはとても多い。
もうひとつは家族で外食する時、関西だと圧倒的に王将になりがちでファミレスの選択肢がそもそも出てこない。
加えて、京都では景観規制の影響でファミレス特有の高い位置での看板や派手な色使いができない。
そのせいで街中では目立たず存在自体に気づかないことも多い。

たまに埼玉へ帰省した時に国道沿いのマクドナルドの看板が高い位置で
クルクル回っているのにものすごく違和感を感じるし、鮮やかな赤と黄色と文字が眩しく感じる。
京都に移住してからというものファミレスに行く機会は数えるほどしかない。
そんな中で、家族で“ちょっと特別な日”にだけ訪れるのがロイヤルホスト。
家族4人で食事をすると会計はだいたい1万円を超えるので普段使いには少し敷居が高いけれど価格に見合う満足感がしっかりとある。
何より、昭和生まれの自分が子どもの頃に感じた「外食しに来た」という、あのちょっとした高揚感が、いまだにロイヤルホストには残っている。
だからこそ、家族での“外食”がロイホになるのは、ある意味自然な流れなのかもしれない。
入り口の二重扉に、レジ横のお土産コーナー。
ふかふかの絨毯に、外の景色が見えるソファー席。
分厚いメニューを開く瞬間のわくわく感と丁寧な対面接客。
自分が子どもの頃に感じていたあの外食の風景が、今もほとんど変わらずにそこにあることがほんの少し心をあたたかくしてくれる。
つい先日、そんなロイヤルホストを愛してやまない著名人たちのエッセイ集をこないだ大垣書店で購入した。
ページをめくるごとにロイヤルホストの魅力が丁寧に描かれていて、読んでいるうちにどうしても行きたくなってしまった。
つい先日、大垣書店でふと目に入ったのが、ロイヤルホストを愛する著名人たちのエッセイ集だった。
ページをめくるごとにロイホへの思いと、あの空間の魅力が丁寧に描かれていて読んでいるうちにどうしても行きたくなってしまったので家から一番近いロイヤルホスト北山店へ仕事終わりに1人で向かう。


すぐ近くに京都府立植物園と京都コンサートホールと京都府立京都歴彩館があり、
京都の文化・芸術が密集している地域でもある。
金曜日の夜7時。
家族と訪れるのもこの北山店なので、店内の勝手はわかっているつもりだったが、ひとりで扉を開けるのは今回が初めて入り口の二重扉に手をかけた瞬間、ほんの少しだけ心臓の鼓動が速くなる。
扉を開けると、すぐに「いらっしゃいませ」と声がかかり、店員さんが小走りで駆け寄ってくる。
最近の飲食店はどこも人手不足で、入店してもなかなか案内されなかったり、タブレット端末での機械的なやりとりが主流になっている中、このスムーズなレスポンスに期待ができる。
ディナータイムの店内は、だいたい6割ほどの席が埋まっていて、残念ながら窓際の席は満席。
案内されたのはドリンクバーのすぐそばのテーブルだった。
メニューを手渡ししてくれた店員さんの丁寧な対応に、ちょっとした“特別感”を覚える。
タブレット注文が当たり前になった今、こうして人の手で渡されたメニュー表を広げるという行為だけで、なんだかワンランク上のサービスを受けているような気がしてくる。
表紙をめくるようにメニューを眺めていると、魅力的な料理がずらりと並んでいて、即決即断がポリシーの自分も少しだけ心が揺らぐ。
けれど、エッセイ集で多くの人が絶賛していたメニューのことを思い出し、最終的にコスモドリア、オニオングラタンスープ、パンケーキ、そしてドリンクバーを注文することにした。

ネーミングのとおり楽園思わすトロピカルな香りだが、後味がさっぱりとした紅茶でとても飲みやすい。
注文して10分くらいたったタイミングでオニオングラタンスープとコスモドリアが到着。
細心の注意が必要なくらいあっつあつの出来立てなのが嬉しい。
味に集中しながら黙々といただく。
美味しい料理はよく噛んで丁寧に味わう。
味覚の種類がバラエティー豊富で奥深く飽きがこない。

コスモドリアは「コスモポリタン」の意味で、バターライスにチキン、栗、マッシュルーム、海老といった野・山・海などの様々な食材を使ったドリアという意味でつけられました←ロイヤルホストHPより引用
ふと店内を見渡すと同世代くらいのサラリーマンがワインとステーキをゆっくり楽しんでいた。
金曜の夜、少しだけ奮発したくなる気持ちはなんとなくわかる。
近くの家族連れもどこか上品な雰囲気が漂っていて、そういえば自分も家族でロイヤルホストに来るときは、どこか“よそ行き”の格好をしていたことに気づく。
食後の余韻にひたっていると、すっかり忘れていたパンケーキが登場。
スーツ姿でスイーツを食べるのは人生初かもしれない。
ちょっとだけ気恥ずかしさを感じたがさっきのサラリーマンがパフェを食べていたのを思い出して少し勇気が出た。
ナイフとフォークの使い方に少し苦戦しながらファミレスクオリティーを軽く凌駕するパンケーキの味に軽く感動する。

パラダイスティーを3杯もおかわりしてお腹が少しタプタプしてきた。
それでもやっぱり最後はコーヒーで締めたくなる。
ドリンクバーの片隅にある「DRIP COFFEE」と書かれたコーヒーマシンは、他のボタン式の飲み物とは少し雰囲気が違って、どこか本気を感じさせるたたずまい。
コーヒーマシンの上に控えめに置かれているコーヒーへのコンセプト読むと味わいが増すからぜひ読んでほしい。

入店から90分が経ち、時刻は20時30分。
居心地が最高でまだまだいれそうだがそろそろ退店しようとレジへ向かう。
最近は無人レジが当たり前になりつつある中、ここでは店員さんがすぐに駆けつけてくれて伝票を読み込みながら対応してくれる。
お金のやり取りこそセルフだけれど、会計が終わると「ありがとうございました」と大きな声と深々としたお辞儀。
この一連の所作に、ホスピタリティレストランの看板に偽りなしと感じた。
エッセイ集の中で「ロイホは人生の潤い」と表現されていたのがとてもしっくりくる。
ささやかな潤いを胸に、入店時はほんの少し重く感じた二重扉を、今度は軽やかに押し開けた。
ふと見上げると、夜空にぽっかり浮かぶロイヤルホストの看板が、少し誇らしげに光っていた。


本記事で紹介した「ロイヤルホストで夜まで語りたい」