石野卓球氏企画・監修によるDJ MIXCDシリーズの最高峰「ミックスアップ」の第3弾は東洋のテクノゴッド・ケンイシイが登場!


選曲は80年代エレクトロからテクノ、デトロイト、エクスペリメンタル、ドラムンベースまで幅広く網羅されており、この一枚を通してケンイシイの音楽的ルーツと進化の過程をなぞることができる内容になっている。
幕開けは、自身のアンビエントな楽曲「Kala」からスタートし、続けてMASTERS AT WORKの別名義、NU YORICAN SOULによるスピリチュアルジャズの名曲「The Nervous Track」へ。
続いて登場するのは、UNITED FUTURE ORGANIZATIONのフロア仕様なクラブジャズ「United Future Airlines」。
テクノDJとしてのイメージが強いケンイシイからすると、意外性のあるセレクションだがジャンルの枠にとらわれない音楽への柔軟なアプローチが感じられる。
グルーヴィーでファンキー、それでいて洗練された空気感がミックス全体にいいアクセントを加えている。
クロスオーバーでジャジーな冒頭から一転、KEVIN SAUNDERSONのTRONIKHOUSE名義による甘美なピアノループが心地よく響く初期テックハウスの名曲「Multifunction」へ。
90年代らしいレトロな質感のシンセとビートが今聴くと逆に新鮮。
デトロイトのエッセンスを感じさせつつ、フロアにも優しく染み込むような展開で、ミックスの流れをぐっと引き締める一曲。
続いては、OCTAVE ONEのドラマティックなシンセメロディーと無感情の女性のボイスサンプルが共鳴したこれもデトロイトテクノの名曲「I Believe」。
ケンイシイのアンビエント名義FLAREから「finite time」をミックス。
浮遊感のあるシンセがゆったりと広がり、そこにチープながら味のあるリズムマシーンのビートが絡み合うローファイで柔らかな一曲。
LOWRES「Amucという実験的な電子テクノでありながら堂々とダンスフロアに投下してしまうケンイシイのセンスに思わず唸る。
冷ややかでミステリアスな音色と独特の浮遊感と緊張感が同居する中毒性の高いこのタイプのトラックを自然に選曲してしまうケンさんのセンスに脱帽。
これはまさにジャーマン・オールド・テクノの金字塔ともいえるMOEBIUS、PLANK、NEUMEIERという異才3人が組んだプロジェクトによる「Pitch Control」。
奇妙でクセの強い電子音が次々と飛び出す、まさに実験音楽の爆発。
CARL CRAIGの初期名義BFCによる傑作「Static Friendly」の跳ねるようなシンセとまるで最初から一体化していたかのようなミックスが展開されるKEN ISHII「Frame Out」。
1988年発表のテクノクラシック、TYREE COOPER「VIDEO CRASH」を完璧な間合いでミックス。
シンプルな構成で正直1時間くらいで作れそうなチープさすらあるのにとにかく破壊力がエグい。
ビットクラッシュ感のある音色と突き刺さるようなリズム、そして何より勢いが猛烈。
これをフロアでぶち込まれたら間違いなく湧く。
まさに反則級の一撃。
世界で1000万枚以上を売り上げたMOBYの名作『PLAY』からテンション爆上がりのMIXバージョン「GO」。
ビートが走り出した瞬間からミラーボール全開でフロアはイケイケゴーゴーモード突入。
ケンイシイのミックスの中でもここは完全にブーストがかかるポイント。
テンションを振り切るこの勢いをフロアで浴びたらもう逃げ場なし。
ここから一気に展開が読めなくなる。
突如現れるのはエレクトロクラシックとヒップホップが融合した「Planet Rock」。
クラフトワークの影響を色濃く受けたAFRIKA BAMBAATAAがもしもテクノを作ったらまさにこんなサウンド。
極め付けはまさかの坂本龍一「RIOT IN LAGOS」。
80年発表とは思えないほど先鋭的で、今も世界中の電子音楽に影響を与え続けている歴史的トラックだが、テクノ中心のDJ MIX で選曲されることは稀。
それを、なんとアフリカ・バンバータ「Planet Rock」のビートに合わせてつないでくるケンイシイのセンスとスキルにただ脱帽。
終盤に差し掛かるともはや展開は完全に読めない領域へ突入。
突如現れるのは、UKインダストリアル/エレクトロのパイオニアMEAT BEAT MANIFESTO。
轟くブレイクビーツにシャウト気味のヴォーカルが重なり、混沌としたエネルギーがフロアを包み込む。
ここからは一気にギアチェンジ。
ドラムンベース〜ブレイクビーツと変則ビート主体のグルーヴに突入していく。
THE BALLISTIC BROTHERSの「Step Into Eden」は、90年代UKらしさ全開のクールなブレイクビーツ。
ジャズやソウルの影響を感じさせつつアンダーグラウンドな空気感もしっかりキープ。
リズムは複雑でもグルーヴはあくまでスムースでスタイリッシュ。
テクノ中心だった前半からここで一気に音の質感が変わることで、MIX全体の奥行きと深みがぐっと増してくる。
そしてクライマックス直前、静かに姿を現すのがテクノ史上最も美しく切ない旋律を持つ名曲、DERRICK MAY「Strings of Life」のアンビエント・ヴァージョン「Strings of The Strings of Life」。
あの高揚感あふれるオリジナルとは一線を画し、ビートを排した静謐な空間にピアノとストリングスがじんわりと広がる、まさに“余韻の美”を感じさせるアレンジ。
通常のDJならまず選ばないようなこのヴァージョンをあえてこのタイミングで差し込んでくるあたり、ケンイシイの深い音楽的感性と選曲のストーリーづくりの巧さが際立つ。
そして、ラストを飾るのはシカゴハウスの巨匠LARRY HEARDによる永遠のハウスクラシック「Can You Feel It」。
確実に心を打つこの名曲でケンイシイの音楽遍歴を辿るDJ旅行は静かで力強い余韻を残して幕を閉じる。
全21曲。
まさに哲学的な選曲。
テクノ、ハウス、エレクトロ、ブレイクビーツ、アンビエント、ヒップホップ……ジャンルを自在に横断しながらも流れに一本芯が通っている。
単なるフロア向けのMIXじゃなく、音楽そのものへの思考や視点が込められていてDJを目指していた自分にとって、とても参考になり刺激となった名盤DJ MIX。
この名盤DJ MIXから1年後にリリースされた、ジャンルレスなテクノ選曲にさらに磨きをかけたDJ MIX名盤がこちら↓