この選曲は真似できない!テクノゴッドのセンスが凝縮したDJ MIX「 Ken Ishii / X-MIX」

90年代初期、テクノ黎明期の貴重なDJ MIXをリリースしていたレーベル!K7の看板シリーズX-MIX。

なかでも1997年にリリースされたケンイシイのX-MIXは、90年代後半の空気を濃密に閉じ込めた1枚で、ただのフロア向けでは終わらない彼の音楽遍歴や美学がぎっしり詰まっている。

今回は大名盤と呼ぶのに相応しいこの本作をあらためて紹介。

Ken Ishii / X-MIX Fast Forward & Rewind


本作のすごいところはジャンルの壁を排除した選曲。

テクノを軸にしながら、ハウス、ドラムンベース、ダブ、アシッドジャズまでを違和感なく行き来し、それぞれのジャンルの魅力を活かしたままひとつの流れにまとめあげている。

最初の衝撃がオープニングを飾るUnited Future Organization

まさかのアシッドジャズで幕開けという予想外すぎるスタートだが、この「Fool’s Paradise」がめちゃくちゃかっこいい。

United Future Organizationからなんの違和感もなくRenegade Soundwave「The Phantom」へ持っていくセンスとテクニックがほんとに秀逸。

当時、中古盤をプレミア価格で買った記憶があり。

(音はとてもカッコいいのだがBPMが遅くて、テクノ系のDJセットではあまり使いどころがなかった)

5曲目に登場するBasement Jaxx「Fly Life」。

これはもう当時のクラブシーンでは鉄板中の鉄板。

UKガラージやハウスの要素をぶち込みつつ、ファンキーでクセになるベースライン、能天気なホーンのキレが抜群で、どんなジャンルのフロアでも浮かずにハマる万能トラック。

リリース当時はいろんなDJがこぞってプレイしてて、これがかかるとフロアが過熱していたのを思い出す。

6曲目からはケンイシイ自身の別名義Flareが登場し、ここから一気にテクノモードへシフト。

ここから始まる中盤の選曲は、まさに“ケンイシイにしかできないDJ”。

無理なく自然にフロアの空気を変えていくその構成力とセンスは圧巻。

そしてその中盤の流れにしれっと仕込まれているのがSYMBOLS & INSTRUMENTS「Mood」。

Derrick Carter、Mark Farina、Chris Nazukaという、今ではレジェンド級の3人が組んでいたユニットで、当時はまだ知る人ぞ知る存在。

この曲は派手さはないがじわっと染み込むようなミニマルな質感とアンビエントなウワモノシンセが幻想的なグルーヴが特徴。

個人的にぜひ推したいのがベルギー・テクノの重鎮Frank De Wulf「Drums in a Grip」。

ドイツの名門テクノレーベルHarthouseからのリリースで、まさに90年代レイヴ〜トランス黎明期のエッセンスが詰まった一曲。

跳ねるようなシンセリフと、グイグイ前に進むパーカッシブなリズムが特徴でアクセントにも流れの中継ぎにもハマる万能な一曲でフロアをロックできる絶妙なテンションにグッとくる。

ユニット名からしてスター・ウォーズ感全開だけど音はしっかりファンキーで重厚なJedi Knights「Dance of Naughty Knights」。

テクノ選曲で普通なら浮いてしまいそうなブレイクビーツを、自然に流れの中に落とし込むあたり、ケンイシイの選曲力とテクニックの高さが際立つ一曲。


大きな山場となるのがこの名曲――Coldcut「Atomic Moog 2000」。

手裏剣がわりにレコードを投げる忍者ロゴでおなじみNinja Tuneの看板アーティストColdcutの代表作。

アブストラクトなビートと重厚なブレイク、サンプルの飛ばし方も絶妙で当時も今も全く色褪せない一曲でMIXの中盤~後半に差し掛かる大きな山場としてしっかり存在感を放ってる。


14曲目から怒涛のケンイシイ三連発!!

ここから一気に本人モード突入。

流れを断ち切ることなく自身のトラックでさらにギアを上げてくるのが圧巻。

ここはまさにクライマックス直前のハイライトゾーン。

昔、新宿高島屋タイムズスクエアのオープニングCMがCircular Motion。


ここから先ははテクノの枠を超えてドラムンベースの世界へ突入。

まず驚かされるのが、uZIQの別名義Locustによるカーペンターズのカバー「No One in The World」。

原曲の面影を残しつつも、ダークで美しいドラムンベースへと変貌させてるのが見事。

続くJake Slazenger「Nautilus」はボッサのような軽快さを持つビートに浮遊感たっぷりのシンセが重なり柔らかく広がり、攻めすぎないドラムンベースとして絶妙なバランス感。

最後の大トリはまさかのSquarepusher

ドラムンベースとジャズをぶつけたような高速ビートにどこか切なさも漂う独特の音世界が広がる「Squarepusher Theme」。

この曲のすごさはベースが打ち込みじゃなく生演奏。

超高速ブレイクビーツの中でうねるようなベースラインをリアルタイムで弾いてるというから驚愕。

打ち込みの正確さと生演奏のグルーヴ感が同居していてSquarepusherならではの圧倒的なスキルが光る。

予想外のラストはSilent Poets「Mass」。

深い音響世界と重心の低いダブ感が際立つ空間を贅沢に使ったミニマルなリズムに、柔らかく沈み込むようなベースライン。そこに重なるささやくようなメロディがディープな余韻を静かに残していく。


全20曲、最後までまったく飽きさせない構成。

芸術性も高く、24年前とは思えないほど先を行くグルーヴが詰まっているので今聴いても新鮮。

ぜひ体感してほしい。

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