西麻布にあった伝説的クラブ「YELLOW」。
DJ EMMA、KO KIMURA、石野卓球といった国内トップDJたちが毎月レギュラーイベントを持ち、FRANCOIS K.、DERRICK MAY、DAVID MORALESなど海外のビッグネームも次々と来日してプレイ。
日本のクラブシーンの中心だったといっても過言ではないYELLOWは2008年に惜しくもクローズ。
そのYELLOWは自分の20代を音楽体験とともに青春を謳歌した思い出の場所。
先日、荷物の整理をしていたら机の引き出しの奥から懐かしいフライヤーが一枚出てきた。
それは、人生で初めてクラブに足を踏み入れたUNITED FUTURE ORGANIZATION主催の伝説的パーティ「JAZZIN’」のフライヤーだった。

筆者が20歳になったばかりの頃だから、20年以上も前のフライヤーとなる。
東京・西麻布YELLOWで毎月第4金曜日に開催されていた伝説的パーティ「JAZZIN’」。
日本のクラブジャズ・シーンを牽引したUNITED FUTURE ORGANIZATIONが主催し、RAPHAEL SEBBAG、矢部直、松浦俊夫というメンバーによるDJプレイに加え、毎回豪華なゲストによるライブパフォーマンスが行われていた。
ゲスト陣もとても充実しており、JAZZTRONIKやマンディ満ちるといった国内外で活躍する実力派アーティストが登場。
ジャズを軸としながらも、クラブミュージックとの有機的な融合を試みたその内容は、ジャンルの枠を超えて多くのクラバーを惹きつけていた。

ここで、UNITED FUTURE ORGANIZATIONの簡単なプロフィールと代表曲を紹介。
UFOは1990年に結成された日本を代表するクラブジャズ・ユニット。
結成当時のメンバーはRAPHAEL SEBBAG、矢部直、松浦俊夫の3名。
ジャズを基盤にしながらも、ファンク、ラテン、ヒップホップ、エレクトロニカなど多様な音楽要素を取り込み、独自のスタイルを確立。
1991年にリリースされたデビューシングル「I Love My Baby, My Baby Loves Jazz」は、UKジャズチャートで5位を獲得するという快挙を達成。
日本発のクラブジャズが世界のマーケットに通用することを証明した記念碑的な一曲となった。
1993年にはジャイルス・ピーターソンが主宰する レーベル「Talkin’ Loud」より、1stアルバム『United Future Organization』をリリース。
日本を含む世界29ヵ国での同時リリースという異例の展開で、クラブジャズ界に強いインパクトを与えた。
このアルバムには、当時まだ若手だったマンディ満ちるがボーカルとして参加した「My Foolish Dream」も収録されており、現在に至るまでUFOの代表作のひとつ。
続くセカンドアルバム『No Sound Is Too Taboo』は、アメリカの名門ジャズ・レーベル Verve よりリリース。
日本発のクラブジャズが、ついに本場アメリカでも正式に評価された形となった。
本作に収録されている「United Future Airlines」のリミックス・バージョンは、石野卓球が監修を務めたDJ MIXシリーズ『MIX-UP』第3弾(ケン・イシイ編)にもセレクトされている。
テクノとクラブジャズの垣根を軽やかに越えたケン・イシイの選曲センスには、今あらためて驚かされる。
そしてもう一曲、個人的に何度も繰り返し聴いたのが、美しいメロディと伸びやかなヴォーカルが魅力のジャジーソウル「Magic Wand of Love」。
洗練されたアレンジとエモーショナルな歌声が重なり合い、耳に心地よく、気がつけば何度もリピートしてしまう名曲。
キャリアの絶頂期を感じさせる3rdアルバム『3rd Perspective』は、筆者の愛聴盤の一つ。
スパイ映画のオープニングにふさわしい緊張感と躍動感を兼ね備えた彼らの定番曲「The Planet Plan」収録。
これぞ理想的な“踊れるクラブジャズ”!
ファンキーなベースラインと躍動感溢れるリズムでフロアを魅了する、不屈の名曲「Fool’s Paradise」。
この1曲でU.F.O.のファンになったという声も少なくない。
ブラジリアンジャズのエッセンスを巧みに取り入れ、よりワールドワイドな音楽性へと進化した4枚目のアルバム『Bon Voyage』。
中でもハイライトは、インパクト抜群のイントロと軽快なヴォーカルがクセになる名曲「Flying Saucer」。
当時のJ-WAVEでも頻繁にオンエアされており、耳に残って離れないフックと洒脱なアレンジが印象的な一曲。
数々の名作を世に送り出してきたUNITED FUTURE ORGANIZATION。
そんな世界水準のクラブジャズ・ユニットの存在すらほとんど知らないまま、友人に誘われて足を運んだのが、彼ら主催のパーティ「JAZZIN’」だった。
当時の自分は、ターンテーブルを買ったばかりのDJ志望の若者で、DJスタイルの参考書はピストン西沢のスクラッチ教則本というクラブジャズとは無縁の音楽生活を送っていた。
そんな状態で訪れた西麻布YELLOW。
正直、「一晩中ジャズを聴き続けるのか…」という不安のほうが大きかった記憶がある。
深夜1時、YELLOW近くの「かおたんラーメン」で腹ごしらえ。
揚げ玉ねぎの風味が効いた、深夜の胃袋に優しい一杯。
お腹が満たされいざYELLOWへ。
初見だと絶対に見落とすであろう普通のマンションの入口がYELLOWの扉。
無骨な鉄扉を開けると、地下へと続く階段。
わずかに聴こえてくるフロアのざわめきに胸が高鳴る。
20歳になったばかりの自分は、震える手で入場料を払い、ドリンクチケットを握りしめて地下へと降りていく。
YELLOWは地下1階がバーエリア、地下2階がもう一つのバーと本格的なダンスフロアという構造。
地下1階からは螺旋階段で、地下2階からはゴム製ののれんのような入り口をくぐってフロアに入る。
DJブースは螺旋階段からよく見える造りになっていて、石野卓球や田中フミヤがプレイしているときは、DJ志望の若者たちが競うようにブースを見上げていた。(もちろん、自分もその一人)
初めて足を踏み入れたクラブ。
そして、初めて出会ったクラブジャズ。
ダンスフロアに流れていたのは、パーカッシヴなラテンリズム、グルーヴィーなベースライン、そして洒脱な旋律。思っていた以上に“踊れる”という発見があった。
イメージしていたクラブ=アンダーグラウンドで猥雑、という先入観は完全に覆され、むしろYELLOWの空間は洗練されたアダルトな空気が漂い、客層も感度の高いファッションに身を包んだ人々が多く、大人の社交場としての側面が色濃かった。
「JAZZIN’」は、まさにそうした“大人の遊び場”として機能していた。
しかし——その上品な空間を一瞬で揺るがすキラーチューンが存在する。
それが、『ルパン三世’78 “WALTHER P99 MIX”(松浦俊夫 Remix)』。
イントロが流れた瞬間、フロアの空気がガラリと変わる。
控えめだった身体の動きが一斉に加速し、静かにグラスを傾けていた人たちが、フロアの爆音に身を委ねる。
YELLOWがライブハウスのような熱量に包まれる瞬間。
矢部直氏は、単なるDJという枠を超えて「選曲家」としてのセンスを強く感じさせるプレイスタイルが印象的。
ジャンルに縛られず、緩やかでありながら芯のあるグルーヴを丁寧に構築していくその手腕は、まさに空間の演出家。
TOM WAITSのような一聴するとクラブとは距離のあるアーティストでさえ、矢部の手にかかれば見事にYELLOWの空気に溶け込む。
そんな矢部氏のセンスが凝縮されたDJ MIXがこちら ↓
モロッコ生まれパリ育ちというバックグラウンドを持つラファエル・セバーグは、ラテンやクラブジャズを軸にしながらも、ドラムンベースやハウスといったジャンルを巧みに取り入れた、多彩で国境を感じさせない選曲が魅力的だった。
なかでも印象に残っているのは、5枚目のアルバム『Bon Voyage』に収録された「Flying Saucer」のModajiリミックス。
原曲の持つ情熱的なラテンの高揚感を、洗練されたディープハウスへと再構築しており、クールかつグルーヴィーなアレンジに仕上がっている。
クラブジャズという限られたジャンルの中で、三者三様の個性が絶妙に交差していたのがUNITED FUTURE ORGANIZATIONの魅力。
RAPHAEL SEBBAG、矢部直、松浦俊夫という3人は、それぞれが異なる美学と音楽的視点を持ち寄りながら、決してバランスを崩すことなくひとつのグルーヴを作り上げていた。
イベント「JAZZIN’」は、そんな彼らの音楽性がダイレクトに体感できる場だった。
オールナイトで開催されるにもかかわらず、一晩中飽きさせることなく、むしろ時間が足りなく感じるほど濃密な内容だったのを覚えている。
偶然のような出会いから、いつしか毎月第4金曜日は自然と「JAZZIN’」へ足を運ぶようになり生活の一部になっていた。
今でもすべてのオリジナルアルバムをプレイリストに入れ、ふとした瞬間に再生するたびに当時の熱量がよみがえる。
そんなU.F.O.のナンバー1として迷いなく挙げたいのが「Loud Minority」。
一枚のフライヤーがきっかけとなり、筆者の青春の記憶が鮮やかに蘇った今回の記事。
あの頃、音と空間に身を委ねながら過ごした夜の数々は、今も色褪せることなく胸に残り続けている。
UNITED FUTURE ORGANIZATIONという稀有な存在が創り出した音楽と「JAZZIN’」で過ごした特別な時間を少しでも感じ取っていただけたならこれ幸い。
机の引き出しからあの伝説のクラブ「YELLOW」の最終マンスリースケジュールが発掘↓