先日、自宅の私物を整理してたら、とんでもないレアアイテムを発掘。
それがこれ ——
KARAFUTO a.k.a FUMIYA TANAKA / DJ MIX TAPE

記憶はあいまいだがこのミックステープは何かのノベルティとして手に入れたものだったはず。
20代の頃は田中フミヤ氏を勝手にDJの師匠と仰ぎ、リリースされたCDやレコードはすべてチェックしていた。
とくにKARAFUTO名義の作品には強く惹かれて、西麻布YELLOWで開催されていたイベント「MASK」にもほぼ毎回通っていた。

KARAFUTO名義は、「本名名義からこぼれ落ちるものをテーマにしている」と雑誌のインタビューで語られていた。
実際、本名=FUMIYA TANAKAで見せるハード・ミニマルなテクノ路線とは一線を画し、KARAFUTOではディープハウスやジャジーなブレイクビーツ、ドラムンベース、エレクトロニカなど、ジャンルを軽やかに横断するスタイルが特徴。
今回発掘されたのは、そんなKARAFUTO名義によるミックステープ。
手元にあるこの一本、最後に聴いたのはおそらく20年ほど前。
内容をすべて特定するのは難しいが、わかる範囲でトラックを紹介していこうと思う。

A面
1 AS ONE / Hyeres
2 SENSORAMA / Aeroplane City
3 HERBERT / So Now..
4 OM1 / Opium
5 HERBERT / This Time
6 MORGAN GEIST / This Too Shall Pass
7 Unknown Artist
B面
1 INDIVIDUAL ORCHESTRA / LAB
2 URBAN TRIBE / D-2000
3 CLATTERBOX / Matterrox
4 Unknown Artist
5 MOVE D / Hurt Me
6 KEVIN YOST / Swinging
7 Unknown Artist
8 HERBERT / Rude(Sensory Elements Mix)
9 FILA BRAZILLIA / Wigs,Bifocals And Nurishment
内容は完全に脱ハードミニマル路線。
このミックスは「踊らせる」よりも「心地よさ」に重きを置いたような、流れと質感を大切にした選曲で構成されている。
オープニングを飾るのは、デトロイト・テック・ジャズ/ソウルの美学を体現するAS ONEによるビートレスの一曲「Hyeres」。
重厚なシンセがゆっくりと立ち上がり音の波が空間を満たしていくなか、続いては、ALTER EGOの変名プロジェクトSENSORAMAによるメランコリックなゆるやかなミニマル・ハウス「 Aeroplane City」。
HERBERTの大傑作アルバム『Around the House』から「So Now」と「This Time」を2曲をセレクト。
「So Now」はソウルフルなボーカルとミニマルなビートがじわじわと染み込むスローグルーヴ。
「This Time」では反復するピアノと柔らかく加工されたヴォーカルが絶妙に絡み合い、深夜の室内で静かに鳴っていてほしいような包容力ある一曲。
ドイツ・ケルンの老舗レーベル〈KOMPAKT〉からのOM1「Opium」。
このトラックはまさにKOMPAKTらしい、ディープで無機質ながらもどこか温度を感じさせるミニマルテクノ。
ピコピコと鳴るシンセがリズムに寄り添いながら反復し、浮遊感ある空間をじわじわと形成していく。
中盤の空気をやわらかく整えるように差し込まれるのが、MORGAN GEISTによるジャジーで洗練されたエレクトロハウス「This Too Shall Pass」。
ビンテージシンセとしなやかなリズムが織りなす端正なトラックで、絶妙にローファイな質感が心地よく、クラブというよりも都会の深夜にしっとり馴染む音。
KARAFUTO名義が志向する“踊らせすぎない選曲”において、こうした音のチョイスは特に効いてくる。
本作の中では珍しく、ややアップリフティングな部類に入るミニマルハウスMove D「Hurt Me」。
フロアを煽るというよりも、じわじわと温度を上げていくようなビルド感が心地よく、展開の流れの中でも絶妙な“持ち上げ”として機能している。
中盤に差し込まれるジャジーなギターリフが程よいアクセントになっていて、硬質なグルーヴに柔らかさと余韻を加えているのもポイント。
ミニマルなハウスでじっくりと下地をつくった流れに、鮮やかな色を添えるKEVIN Yost「Swinging」。
スモーキーな空気感をまとったジャジーなコード進行とスウィンギーなリズムが絶妙で、抑制の効いたビートの中にもしっかりとグルーヴが息づいている。
無機質になりがちなミニマル展開の中に、この1曲が差し込まれることで空間が一気に温かみが帯びていくのが感じられる。
またまた登場、鬼才HERBERTの1stアルバムから「Rude」。
彼特有の生活音サンプリングとミニマルで実験的な構造美が光るトラック。
粗削りなようでいて、全ての音が緻密に設計されたようなグルーヴ感はさすがの一言。
ラストを飾るのはUKジャズ・ファンクの雄、FILA BRAZILLIAによるジャジーなラテン・ブレイクビーツ「Wigs,Bifocals And Nurishment」。
クールに揺れるパーカッションに、スモーキーなホーン、丸みのあるベースラインが絡み、まるで夕暮れのビーチを滑空するかのような多幸感。
全編を通してディープだったMIX TAPEの締めとして華やかな余韻を残す一曲。
全15曲・約60分。
ノベルティとは思えないほど完成度の高い内容。
本名名義ではハードミニマルを貫く田中フミヤ氏が、KARAFUTO名義ではジャンルレスに横断しながらも“心地よさ”に全振りするセンスはさすがのひと言。
しかもCDではなくあえてのカセットテープというのも彼らしい美学がにじむチョイス。
KARAFUTO名義ではこれまでに2枚のMIX CDがリリースされており、どちらもフロア対応のダンサンブルな内容だが、このテープに関しては明確にリスニング寄りの選曲で自宅や移動中にじっくりと浸れる構成になっている。
もしこのテープに出会える機会があれば、迷わず手に入れてほしい。
↓田中フミヤの原点!日本初のDJ MIX CD