理想的な環境で読書をしてみる

京都では、ごくまれにだが「こんな場所に!」という場所にお店や施設がオープンすることがある。

ちょっと前になるが南禅寺そばのブルーボトルコーヒーや清水二寧坂のスターバックスコーヒーなんかはいい例。

どちらも京都を代表する観光地であり、大手企業が参入するような場所ではないという固定観念があったのでオープンするときいて驚いたものだ。

ほかにも嵐山にある築210年の京都府指定文化財邸宅を改装したパンとエスプレッソと嵐山庭園や佛光寺境内にあるD&DEPARTMENT KYOTO d食堂なども有名だ。

これらの店舗は京都を代表する観光地で営業しているから常に行列状態で入店するには待ち時間が必要となる。

「こんな場所に!」という驚きはあるもののブランド企業がこの立地と文化財に相応しい建造物で参入すれば大ヒット間違いなしの条件が揃っているので納得できる部分があるが、BACH代表のブックディレクター幅 允考氏がオープンした「鈍考/喫茶 芳」は思わず住所を二度見するくらい驚いた。

住所は京都市左京区上高野で商業施設はもちろん観光スポットもないような場所。

比叡山の麓にある自然豊な場所の閑静な住宅街にオープンとはどういうことだ?とそこそこ近所に住む自分は少しだけ戸惑った。

公共交通機関を使うなら最寄り駅は叡山鉄道「三宅八幡駅」
都会暮らしには新鮮に映るであろう昭和の雰囲気そのままの無人駅。
最寄り駅から「鈍考/喫茶 芳」までは徒歩で10分くらいだがまったく苦にならない癒しの景観。

「鈍考/喫茶 芳」はBACH代表のブックディレクター幅 允考氏がいままで収集してきた約3000冊の蔵書が読める私設図書館に時間をかけて丁寧に淹れたネルドリップコーヒーがいただける「喫茶 芳」が併設された完全予約制の特別な空間。

予約はwebのみ。施設利用料は2,200円(ドリンク付き)。営業日は水曜日から土曜日の11時〜12時30分、13時〜14時30分、15時〜16時30分の3部制となっており1枠6名まで可能。予約開始は毎週水曜日9時より。2週間後の水、木、金、土曜日の予約をまとめて受付している。

静寂の中で読書をしてほしいという主宰者の想いから接客はミニマム。

入室方法はあらかじめメールで送られたパスワードをスマートロックに入力。

なかなかパスワードが照合せず焦る。

なんとか照合させることができ、扉を開けると店主が理想的な声のトーンで利用方法を案内してくれた。

入館後はロッカーに荷物を預けることができ、手ぶらで読書ができる。

館内は「静けさをデザインした」という読書空間。

音がなるものは控えてほしいということから利用時間中は写真撮影禁止。

こんな素敵な施設の写真の撮影が不可なんて!!と思う人もいるかもしれないが、退出時間後に写真撮影時間が設けられているからご心配なく。

3000冊もの蔵書の圧迫感がまったく感じさせない館内。文学をはじめ、哲学や建築、料理本や漫画、絵本まで興味を惹かれる本がずらり。この日は「食堂おがわの料理帖」をチョイス。
鈍考のコンセプトは「時間の流れが遅い場所」。このコンセプトを具現化したのが建築家の堀部安嗣氏設計によるこの居住空間。人と人の適度な距離が取れるように縁側や小上がりやカウンター席などの様々な居場所が用意されており、オーレヴァンシャーのコロニアルチェアに腰掛けながら本を読むのがなんとも言えない贅沢なひととき。
喫茶 芳のカウンター。コーヒーも時間をかけて丁寧に淹れる。館内に響く音はコーヒー豆を挽く音とネルドリップで淹れたコーヒーがぽとぽと落ちる音だけ。濃いめのコーヒーによくあう濃厚プリンもぜひ一緒にオーダーしたい。

室内のほか、縁側で寺の檜林を借景とした景観を眺めながら本を読むこともできる。

小川のせせらぎ、鳥や虫の鳴き声、風でしなる木々の音・・・日常の喧騒が遮断されると普段聞き漏らしている自然のノイズに意識が傾く。

雨音がなんとも心地よいアンビエントミュージックとなる縁側。このロケーションでいただくコーヒーはなんとも格別。

90分という制限時間の中、スマホをほとんど触らず何も考えずに興味のある本を読んでただぼっ〜とするだけの時間がなんとも心地よく、精神が研ぎ澄まされてインスピレーションが湧いてくる。

本を読むという目的以外にも、マインドフルネスに近いような感じで精神を整えたいときに「鈍考」を利用するのもおおいにありだと感じた。

「こんな場所に!」という場所で特別な時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

■鈍考/喫茶 芳  https://donkou.jp

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