デトロイトテクノの首領 “デリック・メイ” によるファンキーテクノDJ MIX「ミックスアップ Vol.5」

石野卓球氏企画・監修によるDJ MIXCDシリーズの最高峰「ミックスアップ」最終章にデトロイトテクノの創始者デリック・メイが登場!

1997年リリース
全32曲69分

前半はハウス〜テクノ、中盤から後半にかけてはデトロイトテクノを軸にした展開。

筆者も何度か体験したことがあるデリック・メイのDJプレイをかなりリアルにパッケージしたのがこのMIX CD『MIX UP』。

デリックのプレイを間近で見るためにDJブースの前に張り付いていたこともあったが、彼のミックスは基本、1曲あたり2〜3分でどんどん繋いでいく早回しスタイル。

もちろんこのCDでもその早繋ぎが炸裂していてグルーヴをどんどん加速させながらミックスしていく。

冒頭はあの伝説的なラジオ番組『MAYDAY MIX』を思い起こさせる“メイデイズ・イントロ”でスタート。

Nick Holderの変名FRUIT LOOPSによる「The Message Is Love」で爽やかに幕を開け、続いては定番ビートとして何度もサンプリングされてきたEARTH PEOPLE「Dance」。

しかもここ、超タイトなカットインで強引に差し込んでくるというスリリングな展開。

単調なミニマルフレーズが延々とループし、徐々に高揚感を煽っていくシンセ。

そこに突如として差し込まれる、誰もが耳を疑う女性の喘ぎ声からのまさかのスローダウン展開——

LIL’ LOUIS「French Kiss」は、そんな大胆すぎる構成で世界中のフロアを熱狂させたハウスクラシックで全世界で600万枚を売り上げる大ヒット。

ただしこの曲、家で大音量で流すのはちょっと注意が必要で聴くタイミングと場所を選ぶべき1曲。

エロティックな熱気が残る中、空気を一変させてクールに流れ込んでくるのが、HOUSE PROUD PEOPLE「Lonely Disco Dancer」。

滑らかなグルーヴとタイトなビート、派手すぎず抑制の効いたディスコ感が絶妙で、いわゆるテックハウスの“かっこよさ”を端的に体現したような1曲。

King Brittの別名義Scuba「You Are My Heaven」での浮遊感あるトラックから、ファットでグルーヴィーなシカゴハウスの代名詞DJ SNEAK「Sound In My Head」、そしてモダンで洗練されたNew Soul Fusion「Prelude」へと、テンポよくシームレスにグルーヴを引き継いでいく流れが見事。

シカゴハウスのレジェンド、Paul Johnson「A Little Suntin Suntin」をこの流れで選曲するのがまさにデリック・メイの真骨頂。

90年代ハウス黄金期の空気を凝縮したようなファンキーなベースラインと跳ねたなビートがフロアの熱気をグッと押し上げる。

フロアにいたら確実に歓声が上がる瞬間。

この頃からすでにしゃべり芸としての存在感が際立っているGREEN VELVET。

クセになる語り口に重なるのが、ジワジワとビルドアップしていくアシッドベース。

ミニマルかつパンチの効いたトラックがじわじわとフロアの温度をさらに上昇させる。

ミニマルな構成にトライバル要素を巧みに織り交ぜた小気味よいTHE HAYDEN ANDRE PROJECT「Tribal Life」

土着的なパーカッションがじんわりと効いていて、攻撃的なハイハットが脳を刺激する。

“パパーン”のフレーズでお馴染み、JEFF MILLSを代表する名曲「Alarm」。

この攻撃的で切れ味抜群のトラックを、なんと逆回転で再生しながらPHUTUREの「Spank Spank」とミックスしてしまうという常人離れしたミックス芸を披露。

しかも完全に手動。

20年以上経った今でも、これを人力でやれるDJはほとんどいないはず。

まさにデリック・メイならではの“神業”が光るミックス!

シカゴの名門レーベル〈Dancemania〉を代表するアーティストDJ MILTON「1999」は、そのチープさが逆にクセになる一曲。

スカスカなビート頼りないピコピコ音が乗っかるだけのシンプルな構成だが、この抜け感とローファイな鳴りが最高に中毒性あり。

これぞリアル・シカゴ・ゲットーハウスの醍醐味。


終盤に差しかかるとデリック・メイらしく本領発揮のデトロイトテクノ・ゾーンへ突入。

なかでもCARL CRAIGによる変名プロジェクトDESIGNER MUSICの名曲「GOOD GIRLS」は、この流れの中で絶妙に光る一曲。

90年代当時、このトラックをどうミックスするかはDJのセンスと技量が問われる試金石的トラックをいとも簡単にミックスr。

ミニマルで反復するフレーズが淡々と続く中、ベースラインが巧みにアップダウンを繰り返し、じわじわとフロアのテンションを引き上げていく名曲「CLUB MCM」。

派手さはないが、ピークを演出するには十分すぎる強度を持っていてセット中盤から後半へ起爆剤としても抜群の存在感を放つ。

JEFF MILLSの「Master Plan」から、さらに自身の変名プロジェクトTHE PURPOSE MAKERへとシームレスに繋ぐ展開はまさにデリック・メイの真骨頂。

ダークで硬質、しかしどこかファンキーなグルーヴを湛えたデトロイトテクノの真髄が次々に投下される。

そしてグルーヴのピークを抜けたその先に待っているのが、BASIC CHANNEL直系、SUBSTANCEによる「Relish」

フィナーレに向けての起爆剤となるのがBASEMENT JAXX初期の隠れた名作「Get Down Get Horny」

ラテンパーカッションを軸にしたクールなグルーヴが絶妙に融合。

どこか雑多で混沌としたビートの中にもBASSMENT JAXXらしいひねりと洗練を感じさせる洒脱でダンサブルな仕上がり。

まさにピーク前の”噛ませ曲”として機能するAUBREY「Aubrey」

明らかにフロアの空気をじわじわと熱くしながら、次の爆発に向けてテンションを引き上げる橋渡し的な存在。

大トリを飾るのは、まさかのBassment Jaxx「Eu Nao」。

ラテンフレーバーが効いたグルーヴィーなハウスで、エネルギーを放出しきった後のフロアにじわっと染み込むようなラストチューン。

軽快なパーカッションとしなやかなベースラインが絶妙に絡み合いどこか哀愁を帯びたメロディがエンドロールのような余韻を残す。

ラストを飾るのは、デリック・メイの愛弟子STACEY PULLENによるSILENT PHASE名義「Meditive Fusion K」。

静かに深く沈み込むようなディープテクノで、デトロイトらしい透明感のあるシンセが印象的。

熱狂のピークを抜けた先に訪れる、穏やかな余韻。静かなグルーヴでしっかり締めくくる、渋いラスト。


69分があっという間に過ぎる32曲のフルボリューム。

それでいて詰め込み感がまったくないのは、まさにセンスとテクニックの賜物だ。

何度でも繰り返し聴きたくなる、そんな名盤。

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