
2007年リリース。
DJ歴15年を迎えた田中フミヤが、数年間にわたって構想していた前代未聞のDJライブ・ドキュメンタリー映像がこの『Via』。
舞台は西麻布YELLOW。
自身のレジデントイベント「CHAOS」での一夜を完全収録。
最大の特徴は、プレイ中の田中フミヤ氏がマイクを装着し、リアルタイムで「どんな判断で次の曲を選んだか」「今、何を考えているか」を語りながらDJをしているという点。
まるでDJの“頭の中”をそのまま可視化するような演出は当時としては極めて斬新。
映像は5つのカメラカットで構成されており、手元を真上から捉えたショット、横からのアングル、そしてダンスフロア全体の熱気を収めたカットも含まれる。
アナログレコード全盛期の記録であり、盤をターンテーブルに載せる仕草や、ピッチ調整の丁寧な手つきなど、今では貴重な“手仕事”の美学がそこにある。
DJフロアの喧騒、揺れる照明、踊り続けるオーディエンスの反応も伝わるようにダンスフロアの様子もばっちりカメラで撮られており、今はなきYELLOWの貴重な記録映像でもある他に類を見ないドキュメント作品。

舞台は2007年3月24日に西麻布YELLOWで開催された「CHAOS」。
DJプレイは、観客もまばらな22時39分に静かにスタート。
そこから、満員のフロアが熱気に包まれた2時52分までの約4時間を違和感のない流れでおよそ1時間の映像に再構成している。
深夜0時を過ぎたあたりからフロアの熱量が一気に高まりコールが飛び交い始める。
特に女性客からの歓声が目立つのも田中フミヤ氏のDJならでは。
映像にはプレイだけでなく、石野卓球や新宿リキッドルーム、YELLOWのスタッフ、宇川直宏といった関係者たちのインタビューも収録。
彼らはそれぞれの視点から田中フミヤ氏の功績を語っている。
中でも宇川の「オーディエンスの波動を感じ取って、それを鏡のように跳ね返す」という言葉は、彼のDJスタイルを端的に表現したひとこととして印象的。
なお、この映像に収められたDJセットの一部は、ミックスCD『mur-mur-conversation mix』としてもリリースされており、耳からも“あの夜”を追体験できる。

この『Via』の映像作品で特筆すべきは、ゆるやかな立ち上がりからピークタイムまでのフロアの変化が克明に捉えられている点。
観客がまばらな時間帯から徐々に人が集まり、やがてフロアが満員になり熱気の渦に包まれる過程がリアルに記録されており、DJを志す者にとっては大いに参考になる貴重な資料でもある。
そして最大の見どころは田中フミヤ氏が実際のDJプレイ中にマイクで「頭の中」を言語化している点。
もちろん、語られる内容はあくまで“本人のイメージ”であり、唯一の正解があるわけではない。
ただ、それを即興で明瞭に言語化できてしまう点に、彼のセンスと経験の深さがうかがえる。
たとえば、こんなフレーズが次々と飛び出す:
- 「低域の組み合わせに注意、中高域に彩りを」
- 「低音の低域をこのままキープ」
- 「ミックスに変化をつけていく」
- 「タイミングを急ぎすぎない、できるだけひっぱってもいい」
- 「全体の流れを考えると、そろそろレコードをつないでいくタイミング」
特に「低域」に対する意識が何度も登場するのが印象的。
そして面白いのが、彼が言葉を発した瞬間にグルーヴに変化が起き、それにフロアが反応するというライブ感。
まさに音と人が即興で呼応する“生きた現場”の記録といえる。
この貴重な映像を収録したDVD『Via』はすでに廃盤となっており、現在ではプレミア価格で取引されている。
しかし、そんな伝説的映像が田中フミヤ公式YouTubeチャンネルにて期間限定で無料公開された(※2025年7月現在)。
▶︎ Fumiya Tanaka – via part.1(YouTubeリンク)
公式配信というのが嬉しいポイント。
しかも映像中、2:18あたりで発生する“音飛び”に思わず苦笑いするフミヤ氏の表情まで記録されており、普段はクールな彼の人間味も垣間見える瞬間。
YELLOWの空気感ごとパッケージされたような、唯一無二の映像作品。
見逃していた人も、何度も観た人も、今こそこの映像を再体験する絶好の機会。
ミニマルテクノの真髄を味わいたいなら、この田中フミヤのDJ MIX CDは外せない↓