京都のちょっと変わった場所でライブを観る

京都では、時々「こんな場所で?」と思うようなところでライブが行われることがある。

しかも出演するのは、大御所だったりこれから人気が出そうな注目のアーティストだったりするから油断できない。

そういった会場はそもそもライブを前提に作られていないことが多いので音響的にベストとは言い難い。

でも、何よりも面白いのはアーティストとの距離感。

とにかく近い。

あまりにも近すぎて楽屋にでも招かれたかのような錯覚を覚えるような場所もあったりする。

今回は、そんな京都で体験した“ちょっと変わった会場”でのライブについて改めて振り返ってみたい。


▪️青葉市子@きんせ旅館

まず紹介したいのは日本最古の花街・島原にある「きんせ旅館」で行われた青葉市子のライブ。

この旅館はもともとは遊郭として使われていた建物をそのまま活かして営業していて、旅館業だけでなくカフェとしても人気がある。

今回のライブはそのカフェスペースを使って開催された。

会場の雰囲気は大正ロマンを感じさせる飴色の木目や古い調度品が並びまるで時代をひとつ飛び越えたような空間。

そんな中で響く青葉市子さんの繊細な歌声が空間と完璧に溶け合ってなんとも言えないノスタルジックな空気を醸し出していた。

開催されたのはコロナ禍の真っ只中で客数が制限されていたこともあり、ゆったりとした贅沢な時間が流れていたのを今でもよく覚えている。


▪️CORNELIUS@京都国際会議場

京都市内で2,000人以上を収容できるホールといえばロームシアター京都国立京都国際会館のふたつがある。

ロームシアター京都は音楽ライブから演劇、講演会まで幅広く対応する多目的ホール。

一方、国立京都国際会館はその名の通り国際会議がメインの施設で、1997年には地球温暖化防止京都会議、いわゆる「京都議定書」が採択された歴史的な会場としても知られ教科書にも載るレベルの場所。

これは「AMBIENT KYOTO 2023」の一環として行われたもので、通常のライブとは異なり、視覚と聴覚を研ぎ澄まされるような演出が印象的で、オープニングでメンバーが煙の中から現れてラストは煙と共に消えていくというサプライズな演出にグッときた。

普段は会議用に使われているだけあって、客席には長テーブルが備え付けられており、ライブ会場としてはかなり異色。それが逆に特別感を生んでいて、なかなか味わえない空間での体験となった。

普段は会議用に使われているだけあって客席には長テーブルが備え付けられており、ライブ会場としてはかなり異色。

それが逆に特別感を生んでいてなかなか味わえない空間での体験となった。

会議場だけに音響に懸念を抱いていたがスタッフのご尽力なのか普通のホールより音響が良く響いていて、特に小山田さんのヴォーカルがクリアに聴こえたことが良かった。


▪️猫戦@サウナの梅湯

今回紹介する中でもライブ会場としてはもっとも異色だったのが銭湯で開催された猫戦のライブ。

会場となったのは、「銭湯を日本から消さない」のスローガンで知られる〈ゆとなみ社〉が運営する「サウナの梅湯」

普段は地元の人たちが汗を流す場所がこの日は音楽のための特別な空間に変貌していた。

猫戦は、くるりやキセルを輩出した立命館大学の軽音サークル「ロックコミューン」出身のバンドで、個人的にも推している存在。

メロウでグルーヴィーなサウンドに、原田美桜のスウィートな歌声が重なり、力を抜いて自然体でいたい時にぴったり。

この日は、ヴォーカル・ベース・キーボードのトリオ編成で出演。

湯船の横にすっぽりおさまるようにセットされたステージが妙に愛らしく銭湯という空間にしっくりきていた。

観客はというと、風呂椅子に座ったり、洗い場に直に腰を下ろしたり、お湯の抜かれた湯船の中でくつろぎながら聴いたりと、銭湯ならではの自由でゆるいスタイル。

それでも長時間同じ体勢はさすがにツラいということで、途中、出演者と一緒にラジオ体操をする場面もありなんとも和やかな空気に包まれていた。

お風呂場ということで音響には不安もあったが、天然のリヴァーブが思いのほかいい感じで効いていて、音の広がりも心地よかった。

まさに日常と非日常が交差する、記憶に残るライブだった。


▪️KYOTOJAZZ SEXTET@フォーチュンガーデン京都

京都は近代建築の宝庫。

市内を歩けば歴史ある建物があちこちに残されていて、なかにはカフェやレストランとして再活用されている場所も少なくない。

その一例が、1927年に建てられた島津製作所の旧本社ビルをリノベーションして誕生した〈フォーチュンガーデン京都〉

現在はレストランやウェディング会場、パーティースペースとして使われていて、往時の風格とモダンな要素が絶妙に融合した名建築だ。

そんな空間の中にあるチャペルを使ってライブを行ったのが、沖野修也率いる〈KYOTO JAZZ SEXTET〉

世界のクラブジャズシーンに影響を与え続けるこのバンドが、ウェディングチャペルという異色の会場で熱演を繰り広げた。

会場は、イメージ通りの“教会”らしい内装。

木の温もりが感じられる空間で天井が高く、自然なリヴァーブが音に広がりを与える。

客席には背もたれ付きの横長ベンチが並びふだんは新郎新婦を祝福するその場所で、観客はジャズメンたちの演奏を至近距離で堪能した。

ハレの日のために用意された空間でクールなジャズが響く。

普段とは違う、でも特別なライブ体験だった。


▪️台風クラブ@京都大学西部講堂

1960年代末から70年代にかけて学生運動とロックカルチャーが交錯した場所として今も語り継がれる京都大学・西部講堂。

ここを象徴するアーティストとして伝説のバンド村八分のライブが有名。

プロ・アマ問わず「表現の場」として学生バンドに紛れて有名アーティストが出演するという稀有な場所

そんな西部講堂の前をある日ふと通りかかったら入口に大きなイベント看板が出ていて、出演アーティストを何気なく見てみるとなんと台風クラブの名前があった。

これはもう運命的な出会いというしかない。

そして想像以上に西部講堂の世界観と彼らの音楽性がこれ以上ないくらいマッチング。

しかも、このライブが無料というから、あらためて京都という街の懐の深さ、文化の底力に驚かされる。

何気ない日常の中でふいにこんな音楽体験に出会える。

それが京都の魅力なのかもしれない。


▪️Terry Riley@清水寺

世界遺産で一生に一度の歴史的ライブ

ミニマル・ミュージックの金字塔、テリー・ライリーの名作「In C」

その誕生から60年という節目となる2024年、本人の強い希望により京都・清水寺の舞台で特別な奉納公演が行われた。

開催日は7月21日で満月の夜。

この夜、清水の舞台に集ったのはテリー・ライリーをはじめ、SARA(宮本沙羅)、大野由美子(Buffalo Daughter)、蓮沼執太など、ジャンルや世代を越えた総勢50名以上の演奏者たち。

月明かりに照らされながら奏でられる「In C」は、ただの音楽ではなく、祈りであり、捧げものであり、宇宙との共鳴のようでもあった。

チケットは発売と同時に即完。

世界遺産・清水寺の舞台、満月の夜、そしてミニマル・ミュージックの原点という、この先二度と訪れないであろう条件がすべて重なった、まさに“伝説”と呼ぶにふさわしい一夜だった。

自然と仏と人が織りなす、京都ならではの唯一無二のロケーション。

音が風に乗り、木々を揺らし、満月とともに空へと溶けていくような壮大で神秘的なライブ体験だった。

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